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大阪高等裁判所 昭和57年(う)532号 判決 1982年12月09日

控訴人 李應奎 株式会社伊藤組

被告人 李應奎 株式会社伊藤組

検察官 北側勝

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人小島孝(被告会社伊藤組関係)、同植松繁一(被告人李應奎関係)連名作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官北側勝作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

一、控訴趣意第一の一、(一)及び(二)について

論旨は、要するに、原判示第一ないし第三の事実につき、本件公訴の提起は以下の理由により公訴権の濫用にあたるから、公訴棄却の裁判がなされるべきであるのに、原判決がこれを看過して審理判決をしたのは、刑訴法三三八条の解釈適用を誤つたもので、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない、というのである。

そこで、所論にかんがみ記録を調査して検討し、以下のとおり判断する。

(一)  まず、所論は、本件公訴は、京都府知事が昭和四四年五月二九日なした砂利採取計画不認可処分及び砂防指定地管理規則による不許可処分が有効であることを前提とし、被告人らの所為が違法であるとして提起されたものであるが、右各処分は違法無効なものである、すなわち被告会社の砂利採取計画について京都府知事が不認可とした理由は、(1) 申請にかかる設備及び採取方法に京都府砂利採取計画認可基準及び同取扱要綱に反する点があること、(2)砂利採取法第一九条に該当すること、(3)同法一八条の規定に反する(砂防指定地内行為の許可書の添付がない)こととされているが、被告会社の砂利採取において右(1) 、(2) の理由に該当するような事実は全くなく、また右(3) の理由についても、京都府知事は被告会社に対し砂防指定地管理規則本来の目的とは異る政治的配慮から同規則を濫用して許可を与えなかつた、という。

しかしながら、右砂利採取計画不認可処分に対し、被告会社は昭和四四年七月三〇日土地調整委員会にその取消しの裁定を申請したが、同年八月二七日裁定申請期間の徒過を理由として却下され、これに対し被告会社から行政事件訴訟法一四条に定める出訴期間内に訴の提起がなかつたことにより、右不認可処分は既に確定したことが明らかであるところ、一件記録を精査しても、右不認可処分につき明白かつ重大な瑕疵が存在してこれを当然無効とするに足る資料は見出し難く、また、砂防指定地管理規則に基づく砂防指定地内の土石採取等の申請に対し、昭和四四年四月一日以降につきこれを許可する旨の処分がなされていないことは明らかであるが、関係証拠によれば、被告会社が砂利採取を行つている地域一帯は、地質上多量の降雨があれば山地が崩壊し土砂が流出しやすいうえ、過去の砂利採取により裸地が拡大され荒廃しており、治水砂防上極めて憂慮すべき状態となつているのみならず、被告会社の砂利採取現場に築造されている沈澱池は池中の水圧に十分耐えうるものではなく、多量の降雨があれば崩壊し、集積された土石が沈澱池から流出するヘドロ等に押し流されて青谷川に流入し、ひいては洪水の原因となり、あるいは洪水被害の増大をもたらす危険性があつたこと、京都府としては、このような地域での砂利の採取は小規模なものに限り暫定的に許可を与えてきたが、昭和四三年ころにはその採取が大規模化していたため、被告会社を含む全業者に対し昭和四四年三月三一日までに跡地の整理を行うことを条件として昭和四三年四月一五日最後の許可の更新をしたものであることをそれぞれ認めることができ、これらの事実に徴すると、京都府が被告会社に対し前記管理規則に基づく許可を与えなかつたことにつき、権限を濫用した違法があるということはできない。所論は採用できない。

(二)  つぎに、所論は、京都府知事は被告会社の砂利採取現場のある青谷川筋の砂利採取業者全部に対し砂利採取計画を不認可とし、工事中止を命じたが、これら業者のうち防災措置をしないまま砂利採掘を中止した業者については公訴を提起せず、過去一度も災害を出したことも、青谷川へ汚水を流したこともなく、かつ防災措置を十分とりながら砂利採取を行つていた被告人らを起訴したのは、法の下の平等に反し、砂防法及び砂防指定地管理規則の目的趣旨をも無視したものである、という。

しかしながら、被告人らは、京都府知事から砂利採取行為の中止等の命令を受けその命令が確定した後も、これに従おうとせず、採掘場を拡大しながら長期間にわたり大量の砂利採取を行つてきたものであつて、仮に防災措置に意を用いていたとしても、右同様の命令に従つて事業を閉鎖・移転した業者らに比し、その犯罪の情状は極めて悪質といわざるをえないから、本件公訴の提起が不平等であり、もしくは砂防法等の目的趣旨に反するものであるとはとうていいえない。所論は採用できない。

してみると、原判決が本件公訴を棄却することなく審理判決したことは正当であつて、所論のような法令の解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。

二  控訴趣意第一の二、について

論旨は、要するに、原判示第一の事実中、昭和四六年七月二九日までの被告人らの所為について、本件公訴時効は三年で、起訴の日は昭和四九年七月二九日であるから、その部分につき時効が完成し免訴の裁判がなされるべきであるのに、原判決がこれを看過し全部につき有罪を認定したのは、免訴に関する法令の解釈適用を誤つたもので、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄を免れない、というのである。

しかしながら、原判決がこの点に関し弁護人の主張に対する判断第三において説示、判断するところは適切、正当である。原判決に所論のような法令の解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。

三、控訴趣意第二について

論旨は、要するに、公訴事実第一の訴因は、「芦原六八番地の二の一四、二の四七、二の二三、一の四〇、一の四四、一の四五、一の四六の山林において」と場所を包括的に記載し、どの土地で土石や砂利を何立方米採取したのか不明であるし、集積についてもその場所を特定しておらず、洗浄選別機等の施設を設けた場所も特定されていない、また、公訴事実第二の訴因についても、どの土地において土石の集積を中止するのか、どの土地から施設等の除却をするのか、また、どの土地について採取を中止するのか、どの土地における洗浄を中止するのか、どの土地についてどのような災害防止の措置をとるのか全く特定されていないから公訴事実第一及び第二の各訴因は明確でないのにもかかわらず、これを明らかにすることなく漫然審理した原判決には、明らかに判決に影響を及ぼすべき訴訟手続に関する法令違反があり、破棄を免れない、というのである。

そこで、所論にかんがみ記録を調査して検討するに、本件公訴事実第一及び第二はいずれも集合犯一罪として起訴されたものであり、かつ、被告人らの各違反行為は、公訴事実記載の期間内において、同記載の各土地の全部又は一部で、同記載の違反態様の全部又は一部を行つたというものであるから、起訴状において所論のように違反場所及び違反態様等につき具体的に特定表示することは殆んど不可能であつて、ある程度包括的に記載されることもやむをえないところであり、その細部については、本件審理に先立ち行われた検察官の釈明によつてできる限りの補正がなされ、審判の対象及び防禦の範囲も明らかであるというべきであるから、右公訴事実の訴因が特定を欠く違法なものということはできない。従つて、原判決に所論のような訴訟手続に関する法令違反はない。論旨は理由がない。

四、控訴趣意第三について

論旨は、要するに、京都府の砂防指定地管理規則第一八条、第一九条の罰則規定は砂防法の授権がなく無効であるのに、原判決が原判示第一及び第二の事実の各一部につき右罰則規定を適用したのは、法令の解釈適用を誤つたものであつて破棄を免れない、というのである。

そこで検討するに、砂防法四一条は、「この法律に規定したる私人の義務に関し」罰則を設けうる旨規定し、この法律に基づいて発する命令に違反した者に対する罰則については明記されていないことは所論のとおりであるが、同法四条は、砂防指定地域においては地方行政庁は治水上砂防のため一定の行為を禁止もしくは制限することができる旨を、さらに同法四七条二項は、この法律を施行するため必要な規程は命令をもつてこれを定める旨をそれぞれ規定しているのであるから、法文上、この命令(省令、都道府県規則を含む)に基づく一定行為の禁止もしくは制限も畢竟「この法律に規定したる私人の義務」にほかならず、実質上も、法が特にこれを除外する趣旨であつたとはとうてい解し難い。そして、本件砂防指定地管理規則は砂防法四七条二項、同法施行規程三条前段に基づくものであるから同規則一八条、一九条の罰則規定は法の授権による有効なものといわなければならない。

してみると、原判決が右罰則規定を適用したのは正当であつて、所論のような法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。

五、控訴趣意第四の一について

論旨は、要するに、原判示第一につき事実誤認を主張し、原判決には被告会社が採取・集積した土石や砂利の数量につき採証法則に違反してこれを認定した誤りがあり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから破棄を免れない、というのである。

そこで所論にかんがみ記録を精査して検討するに、原判決挙示の関係各証拠を総合すると、原判示第一の事実中、同判示山林七筆において採取した土石の数量の点を除くその余の事実を優に肯認することができ、右土石の数量については、同判示城陽市大字中小字芦原六八番地一の四〇、一の四四、一の四五、一の四六の山林から合計約一三万立方メートルの土石を採取したことが明らかであるけれども、その余の同番地二の一四、二の四七、二の二三の山林からの採取量はこれを確定するに足る証拠がなく、結局、原判決が同判示七筆の山林において土石約一八万立方メートルを採取したと認定した点は事実を誤認したものといわなければならないが、右七筆の山林(砂防指定地)と砂防指定地外の土地から採掘した土石の合計数量が約四八万立方メートルである事実は証拠上動かし難いところであるから、前記の事実誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。

なお所論は、原判決が証拠として挙示する藪内孫市作成の「伊藤組より砂利砂買入状況一覧表」(検甲18)は原判示第一の土石の採取集積の補強証拠とはなりえないとして縷縷主張するが、原判決は右検甲一八号証のほか原判決挙示の関係証拠を総合して原判示第一の事実を認定しているのであるから、所論は失当というほかない。

してみると、原判決が原判示第一の事実を認定したことに重大な事実誤認はない。論旨は理由がない。

六、控訴趣意第四の二について

論旨は、要するに、原判示第二につき事実誤認を主張し、(一)砂防指定地管理規則違反の点につき、被告人らには原判示京都府知事の命令に応じなければならないような事由が殆んどなかつたから、これありとして、かつ、包括的抽象的になされた右命令は権限を濫用したものであつて無効である、(二)砂利採取法違反の点につき、被告人らは同判示京都府知事の命令当時、命令対象となつている一二筆の土地のうち二の九、二の一五、二の一七、二の一八、二の二〇、二の二一、二の二二及び二の四七の土地については砂利の採取はもちろん洗浄さえも全く行つておらず、また、二の四、二の五、二の八の三筆の土地については命令の前後を問わず全く手をつけていなかつたから、これありとして、かつ、包括的抽象的になされた右命令は権限を濫用したものであつて無効であるから、これらの命令が有効であることを前提として原判示第二の事実を認定した原判決は事実を誤認したものであつて、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから破棄を免れない、というのである。

そこで所論にかんがみ記録を精査して検討するに、関係証拠によれば、原判示第二の京都府達第三七号及び同第四〇号をもつてなされた京都府知事の各命令に対し、被告会社は昭和四四年八月二七日各審査請求をなしたが、前者については昭和四五年一二月一八日、後者については昭和四七年一〇月一一日いずれも審査請求は理由がないとして棄却され、これらの裁決に対し被告会社は行政事件訴訟法に定める訴を提起しなかつたため、右各命令処分は既に確定していることが明らかであるところ、一件記録を精査しても、右各命令処分につき明白かつ重大な瑕疵が存在してこれらを当然無効と認めるに足る資料は見当らない(仮に命令対象となつている土地の一部につき所論のように命令内容に対応すべき違反態様の全部もしくは一部がなかつたとしても、そのことによつて右各命令自体が当然無効であるということはできない。)。

その他記録を精査しても、原判示第二の事実を認定した原判決に所論のような事実誤認はない。論旨は理由がない。

七、控訴趣意第四の三について

論旨は、要するに、原判示第三につき事実誤認を主張し、原判示立木の伐採量については証拠がないから、被告人らは無罪であるのに、原判決が原判示数量を認定して有罪としたのは、重大な事実誤認があり、破棄を免れない、というのである。

そこで所論にかんがみ記録を精査して検討するに、原判決挙示の関係証拠により原判示第三の事実を優に肯認することができる。

所論は、原判決が証拠として引用する証人佐藤孝二の供述は推定によるものであつて証拠価値がない旨主張する。しかしながら、右佐藤証人の立木伐採量に関する供述は、付近の山林の現況と比較対照したうえ科学的資料に基づき算定した結果を供述するものであつて、合理性があり、十分信用できるものというべきである。

その余の所論は、原判決が証拠として挙示していない検甲二六号証の証拠価値を云々するものであるから、失当である。

してみると、原判決が原判示第三の事実を認定したのは正当であつて、所論のような事実誤認はない。論旨は理由がない。

八、控訴趣意第五について

論旨は、要するに、原判決の量刑不当を主張するので、所論にかんがみ記録を精査し、かつ当審における事実取調の結果をも総合して検討するに、本件は、被告人李應奎が砂利採取を業とする被告会社の業務に関し、砂防指定地管理規則にかかる許可並びに砂利採取法にかかる砂利採取計画の認可が得られなかつたのに、砂防指定地を含む広大な土地から大量の土石を採取集積したという砂防指定地管理規則及び砂利採取法違反各一件と、京都府知事の右規則及び法律に基づく中止・除却命令及び災害防止措置命令に従わなかつた右規則及び法律違反各一件と、保安林内での無許可立木伐採及び土地形質変更の森林法違反各一件の事案であるが、各犯行の態様は頗る大規模かつ計画的であつて悪質というほかなく、とくに、被告人らは所轄官署から再三、再四にわたり警告、中止命令を受けながらこれを全く無視して長期間違反行為を反覆累行し、その間厖大な量の土石を採取して多額の利益をあげたのみならず、現在に至るもなお違法な土石採取を強行しているものであつて、その法無視の態度は目に余るものがあること等の犯情に照らすと、被告人らの罪責は厳しく追及処断されなければならないから、被告会社が本件に至るまでは登録を受けた業者として多額の資本を投下し合法的な砂利採取を行つてきたものであることのほか、被告人李應奎の年令、前歴等被告人らのため斟酌すべき諸事情を十分考慮しても、被告人李應奎に対し懲役六月及び罰金一〇万円、被告会社に対し罰金一三万円を言渡した原判決の量刑が不当に重過ぎるとは考えられない。論旨は理由がない。

(なお、原判決の第三事実の法令適用のうち、「森林法二〇六条、三四条一項」或は「森林法二〇七条二号、三四条二項」とあるは、それぞれ「昭和四九年五月法律第三九号附則九条により同法による改正前の森林法二〇六条、三四条一項」又は「昭和四九年五月法律第三九号附則九条により同法による改正前の森林法二〇七条二号、三四条二項」の誤りであるが、その誤りは判決に影響を及ぼさない。)

よつて刑訴法三九六条により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栄枝清一郎 裁判官 吉川寛吾 裁判官 右川亮平)

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